大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和49年(行ウ)41号 判決 1977年10月19日

東京都荒川区西尾久四丁目四番一一号

原告

門田浅吉

右訴訟代理人弁護士

永友巧

西坂信

東京都荒川区西日暮里六丁目七番二号

被告

荒川税務署長

伊東保雄

右指定代理人

竹内康尋

真庭博

吉田和夫

杉本武

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和四四年三月八日付をもつてした原告の昭和四〇年分、同四一年分、同四二年分の各所得税再更正処分及び各過少申告加算税賦課決定(昭和四〇年分、同四一年分については異義申立てに対する決定及び審査請求に対する裁決により、昭和四二年分については異議申立てに対する決定によりそれぞれ一部取り消された後のもの)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、肩書地において主として酒類の小売販売を業としているいわゆる白色申告者であるが、被告に対し昭和四〇年分、同四一年分及び同四二年分の所得税について次表のとおり確定申告をしたところ、同表記載の更正及び増額再更正処分並びに過少申告加算税賦課決定処分を受けたので、原告はこれに対し同表記載の経緯で異議申立て、審査請求をしたところ、右各処分は同表記載のとおり一部取り消された(以下、右一部取消し後の各再更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分を一括して「本件各処分」という。)。

(昭和四〇年分)

<省略>

(昭和四一年分)

<省略>

(昭和四二年分)

<省略>

2  しかしながら、本件各処分は原告の所得を過大に認定したもので違法であるからその取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認定

請求原因1は認めるが、同2は争う。

三  被告の主張

1  推計の必要性

被告は原告の本件各係争年分の事業所得金額を後記主張のとおり推計方法を用いて算出したが、推計によらざるを得なかつた理由は次のとおりである。

原告の各係争年分の所得金額を調査するため、昭和四三年六月、被告の係官が再三にわたり原告方に臨店調査に赴いたが、原告は所得金額の基礎となる帳簿書類等を一切呈示しなかつたばかりか、係官の調査に応じようとしなかつた。

また、原告の異議申立てにつき、被告係官が昭和四四年五月中三回にわたつて原告方店舗に臨店し、原告事業の事実上の経営者である原告の長男吉良に対し、申告額の計算の基礎となる帳簿書類等の呈示を求めたが、同人はこれを全く呈示せず、原処分の全部を取り消すこと、更正の理由を具体的に説明することなどを要求して、異議担当係官の審理に応じなかつた。

したがつて、被告としては、原告の本件各係争年分における事業所得の金額について、その実額を把握することが不可能であつたため、これを推計によつて算出せざるを得なかつたものである。

2  原告の総所得金額の算出根拠

原告の本件各係争年分における総所得金額は次のとおりであり、本件各処分はいずれもその金額の範囲内であるから適法である。

(昭和四〇年分)

<省略>

<省略>

(一) 売上(収入)金額 一六、五二〇、一三六円

次の(二)で述べる売上原価に別表一に掲げる同業者AないしQの一七名の平均差益率一三・〇三パーセントを適用して算出した金額である。

(売上原価) (差益率) (売上((収入))金額)

一四、三六七、五六三円÷(一-〇・一三〇三)=一六、五二〇、一三六円

(二) 売上原価 一四、三六七、五六三円

荒井商店ほか七店から仕入した合計金額である。

(注) 期首及び期末の商品たな卸高は、原告が調査に応じなかつたので数額の把握ができなかつたため同額と認定した(昭和四一年分及び四二年分についても同じ。)。

(三) 一般経費 五八六、四六五円

前記(一)の売上金額一六、五二〇、一三六円に、同業者の平均一般経費率(別表一にかかげる平均差益率一三・〇三パーセントから平均所得率九・四八パーセントを差引いた率)三・五五パーセントを乗じて算出した金額である。

(四) 雑収入金額 二一六、四一三円

前記(一)の売上金額一六、五二〇、一三六円に別表一に掲げる同業者の平均雑収入率(売上金額に対する雑収入金額の占める割合をいう。以下同じ。)一・三一パーセントを乗じて算出した金額である。

(五) 特別経費 八七、八一〇円

次の(1)雇人費七八、五〇七円及び(2)建物減価償却費九、三〇三円の合計金額である。

(1) 雇人費 七八、五〇七円

原告の昭和三九年分の雇人費に昭和四〇年の平均給与上昇率一〇九・八パーセントを適用して次の算式のとおり推計した。

(三九年分) (平均給与上昇率) (雇人費)

七一、五〇〇円×一・〇九八=七八、五〇七円

(注) 昭和三九年分の雇人費七一、五〇〇円の算出根拠は、同年分の雇人費として被告が認容した青山統司ほか二名分合計二四三、五〇〇円から昭和三九年八月退職した青山統司分一七二、〇〇〇円を除いた残り二名分の額である(以下、同じ。)。

(2) 建物減価償却費 九、三〇三円

その取得価額が不明のため、東京都荒川都税事務所の昭和三五年ないし同四二年における固定資産課税台帳評価額のうち昭和三六年度の評価額八二四、五〇〇円をもつて原告の建物の取得価額と認定したものであり、また、建物のうち事業専用面積は、原告の店舗及び倉庫の面積およそ六六・一一平方メートル(二〇坪)と認定して次の算式により算出したものである。

(取得価額) (残存価額) (償却率) (事業専用割合) (建物減価償却費)

(八二四、五〇〇-八二、四五〇)×〇・〇四二×六六・一一m2  二二一・四七m2=九、三〇三円

(六) 事業専従者控除額 一一二、五〇〇円

原告の申告のとおりである。

(七) 不動産所得の金額 七五、〇〇〇円

原告の申告のとおりである。

(八) 所得控除金額 四一七、〇〇〇円

扶養控除以外は、原告の確定申告書記載のとおりである。

扶誉控除 一〇五、〇〇〇円

原告は、門田栄子(原告の長男吉良の妻)、同良栄(原告の長男吉良の長女)及び山口かつ江(原告の姪)の三名を扶養親族として一六二、五〇〇円の扶養控除を申告しているが、山口かつ江は、同人の夫山口隆が控除対象配偶者として申告を行つており、原告の扶養親族には該当しないものである。

したがつて原告の扶養親族は、門田栄子及び同良栄の二名であり扶養控除の金額は一三才以上の親族である門田栄子について五七、五〇〇円、一三才未満の親族である門田良栄について四七、五〇〇円の合件一〇五、〇〇〇円となる。

(昭和四一年分)

<省略>

<省略>

(一) 売上(収入)金額 一四、三七三、五九八円

次の(二)で述べる売上原価に別表二に掲げる同業者AないしQの一七名の平均差益率一三・六四パーセントを適用して算出した金額である。

(売上原価) (差益率) (売上((収入))金額)

一二、四一三、〇四〇円÷(一-〇・一三六四)=一四、三七三、五九八円

(二) 売上原価 一二、四一三、〇四〇円

荒井商店ほか六店から仕入した合計金額である。

(三) 一般経費 五七六、三八一円

前記(一)の売上金額一四、三七三、五九八円に同業者の平均一般経費率(別表二にかかげる平均差益率一三・六四パーセントから平均所得率九・六三パーセントを差引いた率)四・〇一パーセントを乗じて算出した金額である。

(四) 雑収入金額 二〇九、八五四円

前記(一)の売上金額一四、三七三、五九八円に別表二に掲げる同業者の平均雑収入率一・四六パーセントを乗じて算出した金額である。

(五) 特別経費 九四、七一八円

次の(1)雇人費八五、四一五円及び(2)建物減価償却費九、三〇三、円の合計金額である。

(1) 雇人費 八五、四一五円

原告の昭和三九年分の雇人費に昭和四〇年及び同四一年の平均給与上昇率を適用して次の算式のとおり推計した。

(三九年分) (四〇年上昇率) (四一年上昇率) (雇人費)

七一、五〇〇円×一・〇九八×一・〇八八=八五、四一五円

(2) 建物減価償却費 九、三〇三円

昭和四〇年分で述べたとおりである。

(六) 事業専従者控除額 一四二、五〇〇円

原告の申告のとおりである。

(七) 不動産所得の金額 一二〇、〇〇〇円

原告の申告のとおりである。

(八) 雑所得の金額 二七、五〇〇円

原告が合資会社深田製作所に貸し付けた金員に対する別表四の1(昭和四一年分)記載の受取利息である。

(九) 所得控除金額 四二七、三〇〇円

次にのべる項目以外は、原告の確定申告書記載のとおりである。

(1) 配偶者控除 一二七、五〇〇円

原告は、昭和四一年分について、配偶者控除を申告していないが、原告には控除対象配偶者である門田たけがいるので、配偶者控除一二七、五〇〇円を認めたものである。

(2) 扶養控除 一一七、五〇〇円

原告は、門田栄子(原告の長男吉良の妻)、同良栄(原告の長男吉良の長女)及び山口隆(原告の甥)の三名を扶養親族として一九七、五〇〇円の扶養控除を申告しているが、山口隆は、昭和四一年一月四日から同四三年一月三一日までチキンソース(株)幕張工場に勤務し、同社から昭和四一年分の給与として五八二、六六六円の支給を受けているので同人は、原告の扶養親族には該当しないものである。

したがつて、原告の扶養親族は、門田栄子及び同良栄の二名であり、扶養控除の金額は、一三才以上の親族である門田栄子について六〇、〇〇〇円、一三才未満の親族である門田良栄について五七、五〇〇円の合計一一七、五〇〇円となる。

(昭和四二年分)

<省略>

<省略>

(一) 売上(収入)金額 一三、七九〇、三二六円

次の(二)で述べる売上原価に別表三に掲げる同業者AないしQの一七名の平均差益率一三・八四パーセントを適用して算出した金額である。

(売上原価) (差益率) (売上((収入))金額)

一一、八八一、七四五円÷(一-〇・一三八四)=一三、七九〇、三二六円

(二) 売上原価 一一、八八一、七四五円

荒井商店ほか五店から仕入した合計金額である。

(三) 一般経費 五五一、六一三円

前記(一)の売上金額一三、七九〇、三二六円に同業者の平均一般経費率(別表三にかかげる平均差益率一三・八四パーセントから平均所得率九・八四パーセントを差引いた率)四・〇〇パーセントを乗じて算出した金額である。

(四) 雑収入金額 二三八、五七二円

前記(一)の売上金額一三、七九〇、三二六円に別表三に掲げる同業者の平均雑収入率一・七三パーセントを乗じて算出した金額である。

(五) 特別経費 一〇五、四八〇円

次の(1)雇人費九六、一七七円及び(2)建物減価償却費九、三〇三円の合計金額である。

(1) 雇人費 九六、一七七円

原告の昭和三九年分の雇人費に昭和四〇年、同四一年及び同四二年の平均給与上昇率を適用して次の算式のとおり推計した。

(三九年分) (四〇年上昇率) (四一年上昇率) (四二年上昇率) (雇人費)

七一、五〇〇円×一・〇九八×一・〇八八×一・一二六=九六、一七七円

(2) 建物減価償却費 九、三〇三円

昭和四〇年分で述べたとおりである。

(六) 事業専従者控除額 一五〇、〇〇〇円

原告の申告のとおりである。

(七) 不動産所得の金額 一五〇、〇〇〇円

原告の申告のとおりである。

(八) 雑所得の金額 三七七、五〇〇円

原告が合資会社深田製作所に貸し付けた金員に対する別表四の2(昭和四二年分)記載の受取利息である。

(九) 所得控除金額 四三一、一〇〇円

扶養控除以外は、原告の確定申告書記載のとおりである。

扶養控除 六七、五〇〇円

原告は、門田良栄(原告の長男吉良の長女)、山口隆(原告の甥)及び山口かつ江(原告の姪)の三名を扶養親族として二〇二、五〇〇円の扶養控除を申告しているが、山口隆は、前記昭和四一年分で述べたとおり、チキンソース(株)幕張工場に勤務し、同社から四二年分の給与として六九三、三一三円の支給を受けているので同人は原告の扶養親族には該当せず、また山口かつ江は、同人の夫山口隆が控除対象配偶者として申告を行つており、同人も原告の扶養親族には該当しないものである。

したがつて、原告の扶養親族は、門田良栄一名であり、扶養控除の金額は六七、五〇〇円である。

3  推計の合理性

被告の本訴において主張する原告に対する各係争年分の所得金額の計算における推計の方法は、次に述べるとおり合理的な方法である。

すなわち、売上金額、必要経費等の推計をする場合に同業者の平均的割合を基礎として算出する方法は、いわゆる比率法と呼ばれ、推計方法の代表的類型の一つであり、その合理性及び妥当性は多くの判例の認めるところである。しかして本件において、被告が原告の売上金額、雑収入金額及び一般経費の金額の算定に当たつて適用した同業者の比率は、原告の事業内容に近似すると認められる次の(一)から(六)までに掲げる条件の全部を充たす同業者を選定し、右同業者の売上金額に対する差益率、雑収入率及び所得率を計算し、それぞれの平均割合を算定したものである。

(一) 酒類小売業を営む個人事業経営者であること。

(二) 荒川区西尾久及び東尾久において事業を営む者であること。

(三) 昭和四〇年ないし昭和四二年分につき連続して青色申告書を提出した者であること。

(四) 暦年事業を継続しているもので、かつ、有資格のものであること。

(五) 更正処分を行つたもののうち、国税通則法の規定に基づく不服申立てがなされ現在審理中のもの又は訴訟係属中のもの以外のものであること。

(六) 売上原価が各年分とも次の範囲にあるものであること。

イ 昭和四〇年分については、七〇〇万円以上二、九〇〇万円未満のもの。

ロ 昭和四一年分については、六〇〇万円以上二、五〇〇万円未満のもの。

ハ 昭和四二年分については、六〇〇万円以上二、四〇〇万円未満のもの。

したがつて、同業者比率の算定の基となつた同業者は、業種業態、事業規模、地域とも右の各要件の範囲内において原告と類似性を有しており、また、平均割合算定の基礎となつた数値も本件各処分の対象年分と同一年分のものを採用しているのであるから、右同業者の比率を基礎とした本件推計計算は合理的かつ妥当な方法であるというべきである。

四 被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1は認める。

2  同2について

(一) 昭和四〇年分

売上原価、事業専従者控除額、不動産所得の金額、扶養控除を除く所得控除金額はいずれも認めるが、その余は争う。

(二) 昭和四一年分

売上原価、事業専従者控除額、不動産所得の金額、配偶者控除及び扶養控除を除く所得控除金額はいずれも認めるが、その余は争う。

(三) 昭和四二年分

売上原価、事業専従者控除額、不動産所得の金額、扶養控除を除く所得控除金額はいずれも認めるが、その余は争う。

3  同3は争う。

五 原告の反論(推計の合理性について)

1  被告は本件推計の基礎となつた同業者一七名の氏名、住所等を明らかにしないが、これでは、いかなる同業者が抽出されたのか、また、果して被告主張の抽出基準を充足しているものであるかどうか全く不明であり、被告が推計するについて有利な同業者のみを抽出したとも考えられる。したがつて、被告は同業者を具体的に特定して主張すべきである。

この点につき被告は所得税法二四三条、国家公務員法一〇〇条による守秘義務を主張するが、右各規定はこれを限定して解釈すべきであり、特に本件のように同業者の差益率の大小が原告の所得を左右し、ひいては課税金額に大幅な差異がでる場合には、少くとも当該業者の営業品目とその割合、経営規模、立地条件等を明らかにして推計の合理性を具体的に裏付け、原告に反証を挙げる機会を与えることが公平である。しかるに、単にA・B・C等の符号で示した同業者の数値をもつて推計の基礎とすることは、原告の反証の手段を奪うもので許されないし、推計の合理性を全く欠くというべきである。

2  酒類販売業は、立地条件、事業実績、経営規模の大小、何を主に販売しているかなどにより差益率が全く異なるものである。しかるに被告は本件推計を行うに当たり、右の諸点について明確な基準を示すことなく、漫然一定数の同業者を選択し、その単純平均によつて得られた差益率を用いている。しかし、被告の援用する資料によつても、約一〇パーセントから約一七パーセントと各業者によつて差益率に著しい相違があり、まして、被告の抽出した同業者が原告と同一同程度の立地条件、経営規模、事業実績等にあるかどうか、ことに、その抽出した同業者の扱い品目の割合(酒類何パーセント、雑品何パーセント)についても全く明らかにされていない。これらの点が明確にされない以上、本件推計方法に合理性があるとはいえない。

また、原告の販売品目はその九二パーセント以上を酒類が占めているが、このように酒類だけの販売による粗利益は多くて一〇パーセント弱であることは公知の事実である。しかも、原告のように立地条件の悪い業者は、月何回かの安売りをせざるを得ない立場にあり、現にそのために原告の本件各係争年分における酒類販売粗利益は一〇パーセントを割つているのである。このような状況の下で、被告の主張するように差益率が一三パーセントにも昇るということは到底考えられない。

六 原告の反論に対する被告の認否及び再反論

1  原告の反論1、2は争う。

2  原告は、被告が本件において採用した同業者は、被告に有利なもののみを抽出したかの如く主張するが、その抽出は、東京国税局長の通達を受けた荒川税務署長が右通達の基準を充たす者をすべて抽出して報告したものであり、その抽出過程において恣意の介入する余地はないものである。

3  原告は、同業者の氏名を明らかにしなければ原告の反証の手段を奪うことになる旨主張する。しかしながら、被告が同業者「A・B・C」の住所、氏名を明示しない理由は、所得税法二四三条及び国家公務員法一〇〇条により税務職員は自己が職務上知り得た納税者等の秘密を守ることが法律上義務づけられているからである。のみならず、同業者の住所、氏名を伏したとしても、それは右書面の記載内容に関する信ぴよう性の問題に帰着する事項であるから、同業者の住所、氏名を開示しないからといつて原告主張のような違法があるとはいえない。

また、原告は少なくとも自己の所得に関し最も知悉している者であるから、自己の事業内容を明らかにし収支計算による実額を主張するなど反証をあげることは可能な筈である。しかも、税務署の調査に非協力なため推計課税をうけた他人の訴訟上の便宜のために、これらの同業者がその秘密を公表され犠牲に供されなければならない理由もないのである。

4  また、原告は、同業者率の計算の基礎となつた同業者が同一同程度の立地条件等にあることが前提とならなければ推計の根拠は極めて合理性がうすいとも主張する。しかし、本件において被告が主張する売上金額、雑収入金額及び一般経費の金額は、被告が合理的と認めた一定の範囲の同業者を全体として観察したうえでの平均値であつて、個々の同業者の事業内容に多少の差があることは、むしろ当然のことであり、推計課税の方法によらざるを得なかつた本件の場合において、このことが推計計算の合理性になんら影響を及ぼすものではない。

なお、原告は酒類だけの販売による粗利益は多くて一〇パーセント弱であることは公知の事実である旨主張するが、いかなる資料に基づくものか明らかでなく、具体的根拠に基づかない主張といわねばならない。

第三証拠関係

一  原告

1  証人門田吉良の証言

2  乙第三、四号証のうち、官公署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は不知。第八、九号証の原本の存在とその成立は認める。その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一号証、第二号証の一ないし三、第三ないし第五号証、第六号証の一ないし三、第七ないし第一〇号誠、第一一号証の一、二、第一二号証

2  証人神谷晴久、同国中暁、同深田実の各証言

理由

一  請求原因1(本件各処分の経緯)は当事者間に争いがない。

二  そこで、以下、本件各処分に原告の所得を過大に認定した違法があるかどうかについて検討する。

1  被告は、原告と同業種である酒類小売業を営む一七名の同業者の売上金額に対する差益率、雑収入率、所得率を求めて、これらを基礎に本件各係争年分の原告の売上金額、雑収入及び一般経費を算出したと主張するところ、被告の主張1(推計の必要性)の事実は当事者間に争いがないから、被告が推計によつてこれらを算出したことは、その方法が合理的である限り許容されるというべきである。

2  そこで、右推計方法の合理性の有無について判断するに、いずれも成立に争いのない乙第一号証、第二号証の一ないし三及び証人国中暁の証言並びに弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

東京国税局長は、昭和四九年七月一一日付で荒川税務署長に対し、税務訴訟に関する資料の報告についてと題する通達を発し、荒川区西尾久及び東尾久において酒類小売業を営む個人事業経営者で昭和四〇年、同四一年、同四二年の各年分につき連続して青色申告書を提出した者のうち次の抽出条件に該当する者全員について売上金額、売上原価、雑収入金額等を調査のうえ報告するよう求めた。その抽出条件は、<1>暦年事業を継続している者で、かつ、有資格の者(申告納税額がゼロ又はマイナスでない者)であること、<2>その売上原価が原告の後記売上原価の約半分以上二倍未満の者であること(すなわち、<ア>昭和四〇年分については七、〇〇〇、〇〇〇円以上二九、〇〇〇、〇〇〇円未満の者、<イ>昭和四一年分については六、〇〇〇、〇〇〇円以上二五、〇〇〇、〇〇〇円未満の者、<ウ>昭和四二年分については六、〇〇〇、〇〇〇円以上二四、〇〇〇、〇〇〇円未満の者)、ただし、<3>他の業種目の営業を兼業している者でその金額が区分できない者及び更正処分を行つたもののうち、不服申立てがなされ現在審理中の者及び更正処分を行つたもののうち、不服申立てがなされ現在審理中の者又は訴訟継続中の者は除くというものであつた。

右通達を受けた荒川税務署長は、所属の係官をして同通達に示す条件に該当する酒類小売業を抽出させたが、その方法は、まず、町名別、五十音順に住所、氏名、青色、白色の区別、業種目等を記載した同署保管の索引簿と称するものから、荒川区の西尾久地区及び東尾久地区の酒類小売業者で前記通達に示された条件に一応該当すると思われるもの約三〇件を抽出し、さらに、その抽出したものについて青色申告決算書等を調査し、前記抽出条件に該当しないものを排除し、最終的に、通達に示された条件に適合するもののみを抽出するというものであつた。そのようにして抽出された一七名の同業者の青色申告決算書、調査書等に基づき本件各係争年分の売上金額、売上原価、差引金額、雑収入金額等を調査した結果は、別表一ないし三記載のとおりであり、右同業者の平均差益率、平均雑収入率及び平均所得率(いずれも小数点第三位以下切り捨て)が同表平均欄記載のとおりとなることは計算上明らかである。

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定した事実によれば、被告が本訴において主張している同業者の差益率、雑収入率及び所得率は、各年分とも原告と同地域における同種、同規模の同業者の差益金額、雑収入金額、差引金額等をもととして算出されており、その同業者の抽出は荒川税務署に保管されている青色申告決算書等の資料により公正、正確にされており、恣意の働く余地は全くなかつたものといえるので、これらの数値による推計には合理性があると認めるのが相当である。

なお、原告は、被告が本訴において推計の基礎となつた同業者の住所、氏名等を明らかにせず、ABC等の符号でこれを示していることは、原告の反証の手段を奪うものであつて許されない旨主張するが、被告が同業者の住所、氏名等を明示しないのは、国家公務員法一〇〇条一項、所得税法二四三条により税務職員に課された守秘義務に基づくもので、やむを得ないところであり、また、このことによつて原告の反証の手段が全く奪われるわけではないし、他方、本件においては、同業者の抽出が公正、正確に行われたことがその抽出作業に当たつた税務職員の証言により認められるのであるから、氏名等を公開しないからといつて前記同業者の数値を根拠とした推計が不当、不合理なものということはできない。

また、原告は、本件推計の基礎となつた同業者が原告と同一同程度の立地条件等にあること、取扱い商品の割合も同程度であることなどが明らかにされない限り、本件推計方法に合理性があるとはいえない旨主張する。しかしながら、所得の実額が把握できない場合に、同業者の平均値によつてこれを推計することは一応合理的な方法であるというべきであり、その場合、当該同業者間に通常存する程度の営業条件の差異は当該平均値の中に吸収されているものとしてこれを無視することができるのであつて、すでに認定したように被告が抽出した同業者一七名はいずれも原告と同地域において営業しているものであり、かつ、売上原価が原告のそれとほぼ同程度のものであることが明らかな本件において、原告の主張するように原告と同業者間の個別的具体的諸条件のすべてにつき必ずしも類似性が明らかでなく、また、差益率に各年分とも最高と最低で約五、六パーセントの差異があるとしても、右同業者の平均値による推計をすることは許されるものと解するのが相当である。

さらに、原告は、酒類だけの販売による粗利益(差益率)は多くて一〇パーセント弱であるところ、安売りのため原告の本件各係争年分における酒類販売利益は一〇パーセントを割つている旨主張し、証人門田吉良の証言中にはこれに副うかのような供述部分があるが、同証人の挙げる右数値はあいまいで何ら具体的資料、根拠に基づかない同証人の主観によるものにすぎず、たやすく措信しがたく、他に本件推計を著しく不当ならしめるような原告の特殊事情の存在を認めるに足る証拠はない。

3  次に、本件各係争年分における原告の所得金額について検討する。

(一)  昭和四〇年分の所得金額

(1) 売上原価 一四、三六七、五六三円

当事者間に争いがない。

(2) 売上(収入)金額 一六、五二〇、一三六円

右売上原価に別表一記載の同業者の平均差益率一三・〇三パーセントを適用して得た金額である。

(売上原価) (差益率) (売上((収入))金額)

一四、三六七、五六三円÷(一-〇・一三〇三)=一六、五二〇、一三六円

(3) 一般経費 五八六、四六四円

右売上金額に同業者の平均一般経費率(別表一記載の平均差益率一三・〇三パーセントから平均所得率九・四八パーセントを差引いた率)三・五五パーセントを乗じて得た金額である。

(売上金額) (一般経費率) (一般経費)

一六、五二〇、一三六円×〇・〇三五五=五八六、四六四円

(4) 雑収入金額 二一六、四一三円

右売上金額に別表一記載の同業者の平均雑収入率一・三一パーセントを乗じて得た金額である。

(売上金額) (雑収入率) (雑収入金額)

一六、五二〇、一三六円×〇・〇一三一=二一六、四一三円

(5) 特別経費 八六、〇三八円

次の(ア)、(イ)の合計額である。

(ア) 雇入費 七八、五〇七円

被告は、原告の昭和三九年分の雇入費の一部に平均給与上昇率を適用して原告の本件各係争年分の雇人費を推計しているので、右推計の合理性について判断するに、原本の存在とその成立に争いのない乙第八、九号証、成立に争いのない乙第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二号証、証人門田吉良の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、原告の昭和三九年分における雇人費は青山統司ほか二名分合計二四三、五〇〇円(青山統司分一七二、〇〇〇円、ほか二名分七一、五〇〇円)であつたこと、右青山統司は昭和三九年中に退職していること、国税庁民間給与実態統計調査結果報告によると、給与所得者一人当たりの平均給与の上昇率は、昭和四〇年が九・八パーセント、同四一年が八・八パーセント、同四二年が一二・六パーセントとなつていることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定事実によれば、原告の昭和三九年分雇入費二四三、五〇〇円中退職した青山統司を除く二名分の給与額七一、五〇〇円に平均給与上昇率を乗じて、原告の本件各係争年分における雇入費を推計することには合理性があるということができる。

したがつて、原告の昭和四〇年分の雇入費は、次の算式のとおり七八、五〇七円とするのが相当である。

(三九年分) (平均給与上昇率) (雇入費)

七一、五〇〇円×一・〇九八=七八、五〇七円

(イ) 建物減価償却費 七、五三一円

成立に争いのない乙第五号証、証人門田吉良の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告がその事業の用に供する減価償却資産としては原告の店舗のある肩書地所在の木造建物だけであること、原告が右建物を増築した昭和三六年における固定資産課税台帳に登録された右建物の評価額は八二四、五〇〇円であること、右建物の一部は原告らの住居として使用されており、同建物の面積二二一・四七平方メートル中、事業専用面積は被告主張の六六・一一平方メートル(約二〇坪)を超えないことが認められ(右認定を左右するに足る証拠はない。)、右評価額八二四、五〇〇円をもつて右建物の取得価額と推認するのが相当である。

そして、昭和四一年蔵令第三七号による改正前の減価償却資産の耐用年数等に関する省令一条一項一号、四条一項、別表第一、第一〇によれば、木造店舗用建物の耐用年数は三〇年、定額法の償却率は〇・〇三四であるから、右建物の事業専用部分の減価償却費は、次の算式のとおり七、五三一円とするのが相当である。

(取得価額) (残存価額) (償却率) (事業専用割合) (建物減価償却費)

(八二四、五〇〇円-八二、四五〇円)×〇・〇三四×六六・一一m2  二二一・四七m2=七、五三一円

(6) 事業専従者控除額 一一二、五〇〇円

当事者間に争いがない。

(7) 不動産所得の金額 七五、〇〇〇円

当事者間に争いがない。

(8) 所得控除金額 四一七、〇〇〇円

扶養控除の額を除く、その余の所得控除金額三一二、〇〇〇円については当事者間に争いがない。そして官公署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨により真正に作成されたものと認められる乙第三号証によれば、原告の扶養控除の申告中、山口かつ江は同人の夫山口隆の控除対象配偶者とされていることが認められるから、原告の扶養親族に当たらないものというべく、そうすると、扶養控除の金額は被告主張のとおり一〇五、〇〇〇円とするのが相当である。したがつて、原告の昭和四〇年分における所得控除金額は四一七、〇〇〇円となる。

(9) 課税総所得金額

以上のとおりであるから、昭和四〇年分の原告の事業所得の金額は、売上金額から売上原価、一般経費、特別経費及び事業専従者控除額を差引き、それに雑収入金額を加えた一、五八三、九八四円となり、右事業所得の金額に不動産所得の金額七五、〇〇〇円を加算した金額から所得控除金額四一七、五〇〇円を差引いた一、二四一、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切り捨て)が、原告の昭和四〇年分の所得金額となる。

(二)  昭和四一年分の所得金額

(1) 売上原価 一二、四一三、〇四〇円

当事者間に争いがない。

(2) 売上(収入)金額 一四、三七三、五九八円

右売上原価に別表二記載の同業者の平均差益率一三・六四パーセントを適用して得た金額である。

(売上原価) (差益率) (売上((収入))金額)

一二、四一三、〇四〇円÷(一-〇・一三六四)=一四、三七三、五九八円

(3) 一般経費 五七六、三八一円

右売上金額に同業者の平均一般経費率(別表二記載の平均差益率一三・六四パーセントから平均所得率九・六三パーセントを差引いた率)四・〇一パーセントを乗じて得た金額である。

(売上金額) (一般経費率) (一般経費)

一四、三七三、五九八円×〇・〇四〇一=五七六、三八一円

(4) 雑収入金額 二〇九、八五四円

右売上金額に別表二記載の同業者の平均雑収入率一・四六パーセントを乗じて得た金額である。

(売上金額) (雑収入率) (雑収入金額)

一四、三七三、五九八円×〇・〇一四六=二〇九、八五四円

(5) 特別経費 九四、七一八円

次の(ア)、(イ)の合計額である。

(ア) 雇人費 八五、四一五円

推計方法の合理性及び昭和四〇年、同四一年の平均給与上昇率については既に認定したとおりであるから、原告の昭和四一年分の雇人費は、次の算式のとおり八五、四一五円とするのが相当である。

(三九年分) (四〇年上昇率) (四一年上昇率) (雇人費)

七一、五〇〇円×一・〇九八×一・〇八八=八五、四一五円

(イ) 建物減価償却費 九、三〇三円

昭和四〇年分の建物減価償却費について認定した事実を前提に減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四一年蔵令第三七号による改正後)一条一項一号、四条一項、別表第一、第一〇に定める木造店舗用建物の耐用年数二四年、定額法の償却率〇・〇四二を適用すると昭和四一年分の建物減価償却費は被告主張のとおり九、三〇三円とするのが相当である。

(取得価額) (残存価額) (償却率) (事業専用割合) (建物減価償却費)

<省略>

(6) 事業専従者控除額 一四二、五〇〇円

当事者間に争いがない。

(7) 不動産所得の金額 一二〇、〇〇〇円

当事者間に争いがない。

(8) 雑所得の金額 二七、五〇〇円

いずれも成立に争いのない乙第六号証の三、第七号証及び証人神谷晴久、同深田実の各証言によれば、原告は合資会社深田製作所に対し、昭和四一年一一月二九日以降別表四の1、2記載のとおり手形貸付の方法(一ケ月ごとの手形の書替)により金銭を貸し付け、同表記載のとおり月五分の割合による利息を収受していたことが認められ、右認定に反する証人門田吉良の証言は措信しがたく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

そうすると、原告が収受した右貸付金に対する昭和四一年分の利息は、別表四の1記載のとおり二七、五〇〇円となる。

(9) 所得控除金額 四二七、三〇〇円

配偶者控除及び扶養控除の額を除くその余の所得控除金額一八二、三〇〇円については当事者間に争いがない。

そして、証人門田吉良の証言によれば、原告には配偶者がいることが認められるから、配偶者控除額は被告主張のとおり一二七、五〇〇円となる。

また、官公署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨により真正に作成されたものと認められる乙第四号証によれば、原告の扶養控除の申告中、山口隆はチキンソース株式会社に勤務し、同社から昭和四一年分の給与として五八二、六六六円の支給を受けていることが認められるから、原告の扶養親族に当たらないものというべく、そうすると扶養控除の金額は被告主張のとおり一一七、五〇〇円とするのが相当である。

したがつて、原告の昭和四一年分における所得控除金額は四二七、三〇〇円となる。

(10) 課税総所得金額

以上のとおりであるから、昭和四一年分の原告の事業所得の金額は、売上金額から売上原価、一般経費、特別経費及び事業専従者控除額を差引き、それに雑収入金額を加えた一、三五六、八一三円となり、右事業所得の金額に不動産所得の金額一二〇、〇〇〇円及び雑所得の金額二七、五〇〇円を加算した金額から所得控除金額四二七、三〇〇円を差引いた一、〇七七、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切り捨て)が、原告の昭和四一年分の所得金額となる。

(三)  昭和四二年分の所得金額

(1) 売上原価 一一、八八一、七四五円

当事者間に争いがない。

(2) 売上(収入)金額 一三、七九〇、三二六円

右売上原価に別表三記載の同業者の平均差益率一三・八四パーセントを適用して得た金額である。

(売上原価) (差益率) (売上((収入))金額)

一一、八八一、七四五円÷(一-〇・一三八四)=一三、七九〇、三二六円

(3) 一般経費 五五一、六一三円

右売上金額に同業者の平均一般経費率(別表三記載の平均差益率一三・八四パーセントから平均所得率九・八四パーセントを差引いた率)四・〇〇パーセントを乗じて得た金額である。

(売上金額) (一般経費率) (一般経費)

一三、七九〇、三二六円×〇・〇四〇〇=五五一、六一三円

(4) 雑収入金額 二三八、五七二円

右売上金額に別表三記載の同業者の平均雑収入率一・七三パーセントを乗じて算出した金額である。

(売上金額) (雑収入率) (雑収入金額)

一三、七九〇、三二六円×〇・〇一七三=二三八、五七二円

(5) 特別経費 一〇五、四八〇円

次の(ア)、(イ)の合計額である。

(ア) 雇人費 九六、一七七円

推計方法の合理性及び昭和四〇年、同四一年、同四二年の平均給与上昇率については既に認定したとおりであるから、原告の昭和四二年分の雇入費は、次の算式のとおり九六、一七七円とするのが相当である。

(三九年分) (四〇年上昇率) (四一年上昇率) (四二年上昇率) (雇人費)

七一、五〇〇円×一・〇九八×一・〇八八×一・一二六=九六、一七七円

(イ) 建物減価償却費 九、三〇三円

昭和四一年分について述べたのと同様である。

(6) 事業専従者控除額 一五〇、〇〇〇円

当事者間に争いがない。

(7) 不動産所得の金額 一五〇、〇〇〇円

当事者間に争いがない。

(8) 雑所得の金額 三七七、五〇〇円

原告が合資会社深田製作所に対し別表四の2記載のとおり、金員を貸し付け、利息を収受したことはすでに認定したとおりであるから、昭和四二年分の受取利息の合計は同表記載のとおり三七七、五〇〇円である。

(9) 所得控除金額 四三一、一〇〇円

扶養控除の額を除くその余の所得控除金額三六三、六〇〇円については当事者間に争いがない。そして前掲乙第四号証によれば、原告の扶養控除の申告中、山口隆はチキンソース株式会社に勤務し、同社から昭和四二年分の給与として六九三、三一三円の支給を受けており、また、山口かつ江は右山口隆の控除対象配偶者とされていることが認められるから、右両名は原告の扶養親族に当たらないものというべく、そうすると扶養控除の金額は被告主張のとおり六七、五〇〇円とするのが相当である。したがつて、原告の昭和四二年分における所得控除金額は四三一、一〇〇円となる。

(10) 課税総所得金額

以上のとおりであるから、昭和四二年分の原告の事業所得の金額は、売上金額から売上原価、一般経費、特別経費及び事業専従者控除額を差引き、それに雑収入金額を加えた一、三四〇、〇六〇円となり、右事業所得の金額に不動産所得の金額一五〇、〇〇〇円及び雑所得の金額三七七、五〇〇円を加算した金額から所得控除金額四三一、一〇〇円を差引いた一、四三六、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切り捨て)が、原告の昭和四二年分の所得金額となる。

4  以上のとおり、原告の課税総所得金額は昭和四〇年分一、二四一、〇〇〇円、同四一年分一、〇七七、〇〇〇円及び同四二年分一、四三六、〇〇〇円であり、被告のした本件各処分は、各年分とも右認定金額の範囲内でなされたものであるからいずれも適法である。

三 よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山下薫 裁判官 佐藤久夫 裁判長裁判官安部剛は、転補につき署名捺印することができない。裁判官 山下薫)

別表一

昭和四〇年分差益率及び所得率等表

<省略>

<省略>

別表二

昭和四一年分差益率及び所得率等表

<省略>

<省略>

別表三

昭和四二年分差益率及び所得率等表

<省略>

<省略>

別表四

一、 昭和四一年分

<省略>

二、 昭和四二年分

<省略>

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例